河合塾ユニオン書記長・佐々木さん、講師職への復帰と中間収入の控除なきバックペイを実現する完全勝利!
大学受験予備校の最大手である河合塾が、非常勤講師らの組合・河合塾ユニオンの書記長・佐々木信吾さんの仕事を奪い職場から排除しようとした事件が、12年の闘いを経て、原職復帰と中間収入の控除なしのバックペイの支払いにより、完全勝利で決着しました。退職を前提とした解決金の支払いで終わる事案が多い中、闘い抜いた上での完全勝利であり、ユニオンの代理人を務めた私にとっても大変感慨深い事件ですので、紹介させて頂きます。
事案の概要
1990年から河合塾の非常勤講師として化学や数学を教えてきた佐々木信吾さんは、2010年に非常勤講師が結成した河合塾ユニオンの書記長に就任。以来、組合員の権利を守る活動の中心をも担ってきました。
その佐々木さんが、2013年、教務執務室で厚生労働省のリーフレット(有期社員の無期転換の概説)を撒いたことを河合塾は「厳重注意」。組合がその撤回を求めたところ、河同年11月、翌年度からの佐々木さんの契約の不更新を通知。1年毎の業務委託契約を重ねて23年間講師を務めてきた佐々木さんは、突如、仕事と収入を奪われました。
背景として、2013年に改正労働契約法が施行により5年以上勤務する有期雇用労働者が無期転換権を得られることになったのに対し、河合塾が長年勤務していた有期雇用の事務職員180人の雇止めを決めた、という経緯がありました。佐々木さんは事務職員達から相談を受け、大量雇止めには無期転換逃れの狙いがあるとの問題意識の下、無期転換権を概説した厚労省リーフを普及していました。河合塾はそれを敵視したものと推察できます。
労働委員会から裁判所へ~12年の闘いを経て完全決着
ユニオンは契約非締結の撤回を求め団体交渉を申し入れましたが、河合塾は、佐々木さんは業務委託講師であり労働者ではないとの理由で団交を拒否。ユニオンは2014年、愛知県労働委員会に救済命令を申し立てました。
紙幅の都合上、約12年の闘いを、以下簡単にスケッチします。
(1)2016年に愛労委が、①佐々木さんは労働組合法上の労働者である、②河合塾の契約非締結と団体交渉の拒否は不当労働行為(労組法7条Ⅰ・不利益取扱、Ⅲ・支配介入、Ⅱ・正当な理由なき断交拒否)にあたる、③河合塾は佐々木さんを職場に復帰させ(原職復帰)、中間収入(他業務に就職して得た収入)の控除なしでのバックペイを支払えとの救済命令を出し、2021年、中央労働委員会でもこれが維持されました。
(2)河合塾が救済命令を拒否し、その取り消しを求めた訴訟(被告中労委、ユニオンは被告側に補助参加)で、東京地裁が2023年9月に、佐々木さんの経済的な打撃と、組合が被った萎縮・活動の制約に照らせば、中間収入の控除なしのバックペイ支払いを命じた救済命令は、何ら労働委員会の裁量を逸脱しないと判決。併せて、中労委の緊急命令申立を認容する旨も決定した。これは過料の制裁を伴うので(労組法32条)、翌2024年、河合塾は遂にバックペイを実施し、佐々木さんを講師業務に復帰させざるを得なくなりました。
2024年7月、高裁も地裁の判断を支持。そして今年9月18日に、河合塾の上告を受理しないことを最高裁第二小法廷が決定、約12年のたたかいが完全決着しました。
労働委員会でのユニオンと弁護団の奮闘について
河合塾ユニオンは、佐々木さんをはじめ非常勤講師の勤務実態を浮き彫りにする膨大な資料の提出(他の組合員への不当労働行為の救済申立ても併せ、甲号証は350を超えた)、佐々木さん・竹中委員長への尋問、塾側証人への反対尋問を経て、労働者性と不当労働行為の認定を勝ち取りました。
講師全体の中で業務委託講師の占める割合が常に3~4割を占めていたこと、雇用契約講師と同様の教材マニュアル等が配布され同等の授業の質が要求され、生徒の授業アンケートにより評価され次年度のコマ数やコマ単価が決定されていたこと等を、詳細に浮き彫りにした。佐々木さんのリーフ配布行為の時間、場所、態様(教務執務スペースで生徒がいない時に手渡ししたに過ぎないこと)を具体的に明らかにし、河合塾の施設管理権を何ら侵すものではないことを浮き彫りにしました。
労働委員会でのユニオン代理人は竹内平弁護士、石塚徹弁護士です。中労委で敗れた河合塾が東京地裁に取消訴訟を提起した後、私と藤原朋弘弁護士が代理人となりましたが、河合塾は労働者性と不当労働行為については従来の主張を繰り返すばかりで、見るべき新主張・立証はありませんでした。労働委員会でのユニオンと竹内・石塚両代理人の奮闘が、取消訴訟での最終的な勝利の土台となったと実感しています。
取消訴訟での佐々木さん・竹中委員長の証言
東京地裁の取消訴訟では、不当労働行為(契約非締結と断交拒否)により生じた①佐々木さん個人の経済的ダメージと、②ユニオンの活動に与えた萎縮について、佐々木さん自身と竹中委員長が証言しました(第二鳩タクシー事件最高裁判決の判断枠組みを念頭においた立証活動)。
佐々木さんの契約非締結は予備校・塾業界で広く知られており、個人指導の進学塾への就職も困難を極めたこと、2015~17年までは無職・無収入の状態で、親族からの援助や自身の貯金で生活を維持しなければならず、もっとも収入のあった2018年も、契約非締結前の年収の6割に過ぎなかったこと、集団事業と異なる個別指導には時間と労力を要し、キャンセルも頻繁で安定的な収入には程遠い状況が続いたことを、佐々木さん自身が法廷で克明に証言しました。地裁・高裁が「法人での委託契約講師としての業務と比較して、より重い精神的、肉体的負担を伴うものであった」と認定したのは、当然のことでした。
組合に与えた影響についても、佐々木さん・竹中委員長両名が、不当労働行為があった平成26年には新規加入者がなく、同年以降、発足以来一人もいなかった退会者が毎年出るようになったこと、九州地区の組合員はいなくなったこと、組合員が佐々木さんと同様の対応を受けることを恐れて公然化を躊躇し、本件組合への加入の勧誘や広報等の活動を担うことができなくなっていることを詳細に証言しました。
二人が法廷で証言した事実は法廷を圧し、河合塾代理人からは具体的な反対尋問は何もありませんでした。
その結果、地裁・高裁とも「法人に対するバックペイの支払命令が佐々木書記長の中間収入を控除しない内容であることをもって、救済の判断において合理性を欠くということはできず、労働委員会に認められた裁量権の限界を超えた違法があるとはいえない」と判断しました。
終わりに
裁判所で勝利する(労働委員会に裁量権の逸脱はないとの判断を得る)前に、組合が根絶やしにされ一人もいなくなってしまった事案も少なくありません。本件では、ユニオンが活動を維持し、公然化はできないまでも佐々木さんの闘いを支援する多くの組合員と共に、最終的な勝利を迎えることができたのは、何よりでした。
解決まで12年の長期を要したこと等の課題もありますが、労働組合法上の労働者であると認めさせることを突破口に、不当労働行為の救済命令により原職復帰という最も望ましい結果をえるという“道筋”は、業務委託形式で働く多くの労働者に希望を与えるものであり、多くの方々に今回の勝利を知っていただくことを願っています。
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